インタビュー01:衝撃科学共同研究講座(2021年7月よりダイセル-エンジニアリング・サイエンス共同研究講座)
株式会社ダイセルとの共同研究講座
株式会社ダイセル 研究開発本部 コーポレート研究センター上席技師 工学博士
幅広い視野で「衝撃科学」に取り組む
当講座では、火薬の燃焼、爆薬の爆轟により発生する“熱”、“ガス”、“衝撃”などを利用して新素材や新たなデバイスを開発するため、衝撃現象の原理やその工学的応用を研究しています。超短時間、超微小空間で生じる衝撃現象は未解明のことがまだ多く残されており、可能性を秘めた領域だと考えています。
研究テーマの一つは、爆轟現象を利用して生成されるナノダイヤモンドの更なる高機能化です。担当者は、基礎工学研究科の超高圧環境における物性測定を専門とする研究室、光物性物理学を専門とする研究室、材料力学の研究室など多様な研究室に日々出入りして、理論だけでなく実験的研究まで推進しています。もう一つのテーマは、火薬工学技術を応用し、微細ノズルから高速流れにより生体内へ薬液投与を可能とする新規投与デバイスの基礎研究です。薬液の生体組織内での複雑な作用原理を明らかにするため、マルチスケールバイオメカニクスを専門とする研究室との共同研究を推進しています。
また今年度は、ダイセルグループ会社の研究開発テーマに関して、大阪大学の数理・データ科学教育研究センターの研究者らと社員が、3日間集中的にグループワークによる議論する「スタディグループ※01」への参加の機会を得ることもできました。その取り組みの中で、数理データ解析や材料力学まで、幅広い研究者のいる基礎工学研究科に繋がりを得た強みを実感しています。企業単独では「手も足も出ない」と思えたテーマであったものも、基礎的な段階ですが、研究方針がはっきり見えてきているところです。
これまでの共同研究との違い
従来の共同研究に比べ、共同研究講座を持つことの利点は、「異なった視点」を得られることです。これまでは、「我々には評価技術がないから」「この現象が起こる原理がわからないので」という特定の研究側面に関するテーマについて、ある一つの研究室に共同研究をお願いしていました。共同研究講座はそれとは違い、研究テーマについて、異なった専門領域を持つ複数の教員に協力してもらうことができます。我々が想定していた観点だけでなくて、もっと幅広い視点から、研究内容を深めてもらえるのが大きな利点です。
共同研究講座を持つことで、大学の関係者にも大学の一員とみなしてもらえるので、企業と大学の間の組織の壁も越えやすくなったと感じています。会社から共同研究講座に派遣している社員は、社内とは異なる場で研究に集中できます。やる気のある社員には、伸びる場、広がる場として活用できるでしょう。
大学で見つかる企業に無い知恵
事業化したい、商品化したい、しかし原理やキーとなる技術がわからない。そんなとき、大学の教員から「この手法はどうか」などと、ポンと提言をもらえることがあったり、定性的にしかつかめていなかった現象について、定量化していく端緒を導いてもらったこともあります。大学教員にとっては常識レベルのことでも、企業内では発想できなかった、ということも多々あり、大学側の持つ知識や経験は、共同研究講座を始める前に想像していた以上に豊富でした。
今後は、すでに推進しているテーマ、ある意味では社内のニーズに基づいた研究だけでなく、企業と大学の協働の中で、まったく新しい視点に基づいた研究テーマも見つけたいとも考えています。そのようなテーマで、企業と大学の相乗効果を活かして、双方が実りを得ていく。共同研究講座を、そんな場にしていくのが一つの理想です。
※01. 産業界や諸科学で生じる課題について、コーディネーターが関連する研究者を集め、当該分野の複数の専門家と共に、一定期間集中的に議論する課題解決型の研究集会です。
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